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【FTIメンバー紹介:アナリスト・桐谷啓太】“世界を変えるサイエンスに懸けたい” 基礎研究の社会実装を創業投資で支える

連載 メンバー紹介 桐谷啓太

株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)のメンバー紹介をする連載です。今回は、7月にreverSASP Therapeutics(リベルサスプセラピューティクス)に創業投資を行ったメンバーのひとりであるFTIアナリストの桐谷啓太(きりや・けいた)にインタビュー。FTIに参画した経緯や投資活動にかける思いなどを聞きました。

研究者の成果を社会実装したいという思いでFTIへ

ーーこれまでの経歴や、FTIにJoinした理由を教えてください。

大学では細胞生物学の基礎研究、具体的には細胞骨格とよばれる細胞機能の維持や形態制御にかかわる細胞小器官の機能を研究していました。当時は、世界で自分しか知らない生命の神秘を深堀していくことが非常に面白く、研究活動にのめり込み、博士課程への進学も検討していました。

一方で、画期的新薬の誕生や、ノーベル賞を受賞された研究者の先生方の知見の産業応用などのニュースを耳にするたびに、自分の研究課題に対して「この知見がどう世界に貢献するんだろう」「どうやって人々の手に届くのだろう」という問いを持つようになりました。科学技術の社会実装には”科学者”と”ビジネスに明るい人”が関わっていることは自明でしたので、今思えばやや見切り発車な気もしますが、漠然と「ビジネス側の視座を勉強すれば、社会実装のHowがわかる。桐谷もここに貢献できるのではないか」という仮説の元、好奇心に任せて就職を決意しました。企業が研究成果をどうやって事業に成長させて、いつ、誰の意思決定で、どのようなプロセスを経て人々の手に届くのかを知りたいと感じ、経営コンサルティング会社を選びました。

コンサルタント時代は、計画から実行支援まで、M&A関連の業務に多く従事していました。ゼロベースでの仮説構築と検証、課題解決アプローチの探索…それらのプロセスは研究とコンサルティングでも共通項が多く、私の気質にすごくマッチしていると感じました。一方で、大企業向けのコンサルティングでは経験できなかったアカデミアの技術、その知見からビジネスを生み出すことに対する興味は日に日に増していきました。そんな中でベンチャーキャピタル(VC)という業種を知り、バイオテックに投資をしていて、しかも基礎研究に創業前からアクセスし、社会実装に向けた経営支援を得意としているFTIの活動に興味を感じました。FTIのキャピタリストの皆さんは私の課題意識に強く共感して頂き、参画することになりました。

サイエンス・ビジネスの両面からワクワクする素晴らしい機会に恵まれた

ーー得意とする投資領域や、reverSASP Therapeuticsを投資先に選んだ理由・思い入れを教えてください。

主に国内の創薬系スタートアップについて投資検討しています。とくに創業期や創業前からの支援に関わる機会が多いため、入社前の希望を図らずも叶えられているかなと思っています。

直近リリースになったreverSASP Therapeuticsは、私個人にとってバイオ×創業という初めての経験であり、かつ世界の第一線で活躍する研究者である東京大学医科学研究所の中西真先生とご一緒することができ、サイエンス・ビジネスの両面からワクワクする素晴らしい機会に恵まれています。文字通り“世界を変えるようなサイエンスに懸けたい”と思っているため、本件がそうなるよう全力でサポートしたいと思います。

ーーreverSASP Therapeuticsのサイエンス面で面白いと感じているところは?

炎症性老化細胞に特化した創薬に取り組んでいる点に、着目しています。

近年、老化を「疾患」として捉える動きが出てきています。炎症性老化細胞が体内に蓄積し、炎症物質を出すことで疾患につながることが次々と明らかになっています。

この炎症性老化細胞を標的とする創薬は世界で様々な試みがなされているものの、安全性の観点から大きなリスクが指摘されているものが数多く存在します。老化細胞特有の特徴に対して作用する薬剤を設計することができれば、老化関連疾患に対して高い有効性を発揮することに加えて、ヒトの健康な組織は傷害することなく、“炎症性老化細胞を特異的に除去する”ことができるようになる可能性があります。

ーーreverSASP Therapeuticsのビジネス面で面白いと感じているところは?

老化領域は世界が注目するホットな研究領域ですが、未だ臨床段階にまで至っていない会社がほとんどです。そんな中で、Calico(キャリコ、googleのグループ会社)やAltos(アルトス、米国、山中伸弥教授が上級化学アドバイザーとして参画)など、この領域の研究に特化した勢いのあるスタートアップが次々と創業されています。

国内においても、老化関連疾患を研究領域としている企業はありますが、それらの疾患の根源となる可能性のある炎症性老化細胞について特化して研究している企業はまだ多くありません。黎明期の当該市場でどんな疾患に対してどのような開発を行い、どのようにFTIのポジショニングを確立するか、どのような優位性を訴求するかについては創業前、そして創業初期の今まさに検討課題であり、世界に伍して戦えるよう日々チャレンジを続けています。

ゼロからイチを作る過程が一番充実していて楽しい

ーー投資していてテンション上がったこと、達成感・充実感・やりがい・大変さを感じた瞬間はどんなときですか?

直近のリリース案件や今投資検討している創業期のスタートアップ案件について、やはりゼロからイチを作る過程が一番充実していて楽しいです。

強調するまでもなく、研究者の先生とベンチャーキャピタリストは知識や経験に大きな隔たりがあります。私たちもトップジャーナルに掲載される論文を読んで日々キャッチアップしながら、一方で、ビジネスの観点からサイエンスをどう事業に変えて資金調達につなげていくかについて、先生方へ経験に基づく知見を共有させていただく面もあります。異なるバックグランドのチームで、喧々諤々議論を重ねながらアイデアを形にするのは強いやりがいを感じると共に、創業期に関わるVCであることの醍醐味だと思っています。

今回の創業出資(reverSASP Therapeuticsへの新規投資)では、特に長い期間をかけてビジネスアイデアを練ってきたこともあり、思い入れがひとしおでした。

人と人との繋がりが大事なVCの仕事と相性がいい“DJ”の活動

ーー休日の過ごし方、趣味について教えてください。

桐谷啓太

ベンチャーキャピタリストという職業柄、同業やスタートアップ、関連業界の人と食事にいったりも多いのですが、音楽好きなこともあり、コロナ禍以前は友人とスペースを貸し切ってDJ活動をしていました。

フロアに来てくれた人が良い気分で食事やダンスを楽しんで、交流を深められるような雰囲気や場をつくるのがDJの使命だったりするので、人と人との繋がりから新産業創出に向けた流れを作っていくVCという仕事とは相性がいいのかもしれません。

ーーDJをやっていることで、普段の業務に活かせたエピソードはありますか?

DJ活動を通じて出会った友人は幅広く、銀行員、経営コンサルタント、VC・スタートアップ業界など、図らずも本当に貴重な縁がたくさんありました。多様性はイノベーションの源泉ですし、良い縁は良い仕事に繋がると思っているので、世間の情勢が落ち着いてきたらまた積極的に活動したいと思います!