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【FTIメンバー紹介:プリンシパル・二見崇史】「病に苦しむ人を一刻も早く救いたい」 研究と経営、双方の経験を活かし科学の進展に挑む

株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)のメンバー紹介をする連載です。今回は、2022年7月にFTIが設立投資を行った老化関連疾患の革新的新薬創出を目指すreverSASP Therapeutics株式会社(リベルサスプセラピューティクス)の投資担当であり同社の代表取締役に就任した、FTIプリンシパルの二見崇史(ふたみ・たかし)にインタビュー。FTIに参画した経緯や投資活動にかける思いなどを聞きました。

使命感に突き動かされた、研究者としての日々

ーーこれまでの経歴を教えてください。

もともと宇宙工学に関心があり、大学は東京大学理科一類に入学しました。学部生の頃は、部活動の合気道に熱中する日々を過ごしました。体の動かし方など医学に通じる部分があり、人体の仕組みへの興味もあったことから武術にのめり込んだんですね。3年生になると化学生命工学科に進み、遺伝子工学の研究を行うようになります。この頃から、人の役に立つ基礎研究に携わることに意義を見出すようになっていきました。

東大で修士号を取得した後は、山之内製薬(現アステラス製薬株式会社)に入社し、約10年間、分子医学研究所・薬理研究所で創薬に取り組みました。主な対象領域はがんと2型糖尿病、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)といった生活習慣病で、創薬標的探索からIND(Investigational New Drug)の創製に尽力しました。実際にがん患者さんのサンプルを使用するといった経験から「自分自身が新薬を開発しなければ、目の前で苦しむこの患者さんの病気が治ることはない」ということを強く実感し、創薬への使命感や義務感を覚える毎日でした。一刻も早く研究成果を社会に還元したいという思いで、日夜研究に励みました。

アメリカで見た、スタートアップが創薬に貢献する現状

そんな中、米国・ボストンに新しく設立されるオープンイノベーション促進のための本社直轄部門であるAstellas Innovation Management LLC (AIM)の発足メンバーとして、アメリカに赴任することになります。

グローバルでトップティアとされるVCとの共同投資、Board Meeting(取締役会)でのヒリヒリする真剣な経営討議、これまでは学会で眺めるだけだった世界有数のPI(研究室の主宰者)との対面で科学や創薬の討議ができたこと。世界を動かすバイオベンチャースタートアップエコシステムを直接、肌で感じることができたこと。ともに仕事を乗り越えることで構築できた、信頼できる友人たち…。すべてかけがえのない、人生の転機となる貴重な経験だったと思います。

そこでは、画期的新薬や新規技術はスタートアップが開発し、その後大手製薬企業が引き継ぐ形でビジネス化していること、私がこれまで邁進してきた画期的なサイエンスを治療薬として患者さんに届ける役割は、大手製薬企業からスタートアップに推移しているという現状を知りました。また、そのようなスタートアップを組成、並走、サポートする立役者は、ベンチャーキャピタル(VC)だということも知りました。

アメリカ赴任を終え帰国した後は、経営企画部で経営戦略(中期経営計画の作成と実行、例えばM&A、PMI{M&A後の統合プロセス}、Global Project Lleadなど)に関する業務を担当しました。大手製薬企業の経営陣と直接討議をしたり、バイオベンチャーを買う側のロジックや考え方を経営視点で経験したことが、現在にも活かせる経験になっていると感じます。

ーー創薬大手から一転、FTIに入社した理由は何ですか?

もともとは「研究者として人の役に立ちたい」という思いで、誰かの役に立っている実感を得ることがモチベーションとなっていましたが、気がつけば研究よりもビジネス寄りのライクな業務が中心を占めていました。本来の患者の役に立てる仕事に立ちかえりたいと思い始めていた中、アメリカでは創薬に貢献している企業の7割がスタートアップとVCであったということを思い出しました。

そうして、これからはVCのキャピタリストとして社会にブレイクスルーを起こそうと奮闘するスタートアップを支援したいと思うようになり、その志を持ち、かつ実現できるFTIに入社しました。

研究成果を患者に還元したいという“熱い思い”に共感

ーー得意とする投資領域、また自身が代表取締役を務めているreverSASP Therapeutics への思い入れを教えてください。

研究者として取り組んできた創薬領域、前職での経験を生かしたグローバル案件が強みです。これまで、がんや希少疾患を対象として、遺伝子や細胞治療などの新規モダリティに取り組む企業に関わり、投資活動を行ってきました。

reverSASPは、東京大学医科学研究所・中西真先生の老化バイオロジー研究を基盤としています。設立投資にあたり着眼したのは、まず1つ目が、中西先生が世界トップクラスのサイエンティストであり、その研究成果が「世界を変えるサイエンス」になり得る技術であること。2つ目が、細胞老化の仕組みと老化関連疾患の関連性を解き明かすことで、老化を“治療できる病”だと再定義していることです。

また3つ目として、中西先生はもともとがんの研究者であった点で、私のこれまでの経歴と共通点があり、創薬に対する価値観がフィットしたことです。中西先生は、自身の基礎研究の成果を患者に還元したいという熱い思いを持っています。その点に、患者を救える発見をすることで奮い立ってきた私のそれまでの経験とのシンパシーを感じ、同じ使命感を持った仲間としてシナジーを生むことができると感じました。

グローバルに戦えるチームで成果を出すこと

ーー今後の投資活動についての展望・意気込みを教えてください。

科学の進展にキャピタリストとして貢献し、患者の福音となる医療を社会実装することが目標です。サイエンティストとして1人で研究しているだけでは、できることにも限界があります。一方で、キャピタリストとしてなら、同じ志を持った信頼できる各種スペシャリストを集め、考えうる最高のチームを結成することができると感じています。

また、自分自身が研究成果を出すという範疇を超え、チームが一丸となって目標に突き進むことに、やりがいを持っています。同じ船に乗り込んだ仲間として、仲間の功績をともに喜び、それを励みにし自身の業務にも精を出せるという好循環が生まれる環境を作っていきたいですね。

オフの日は運動や音楽鑑賞でリフレッシュ

ーー休日の過ごし方、趣味について教えてください。

自宅に飾っている『Number14: Gray』(ジャクソン・ポロック)のポスター

土日はジムで運動していることが多いです。また、完全オフの日はクラシックやジャズなどの音楽を聴いて過ごしていますね。ジャズピアニストのKeith Jarret(キース・ジャレット)さんが好きで、よく聴いています。また、モダンアートも好きで、Jackson Pollock(ジャクソン・ポロック)の『Number14: Gray』という絵は、自宅にもポスターを飾っています。

景色の写真も自分で撮ったりしますが、それはカメラや写真が好きというよりも、記憶の喚起という意味合いが強いですね。本もジャンルを問わず、私がこれまで関わってこなかった医学以外のサイエンス、歴史、武術、哲学や宗教など、雑多に読んでいます。