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【投資先対談】新規モダリティの世界的実現に向け奮闘 “ギブ&テイク”で高める信頼感|ルカ・サイエンス

ルカ対談

ミトコンドリアを製剤化する革新的技術を有し、ミトコンドリア障害に起因するさまざまな疾患に対する創薬開発に取り組んでいるルカ・サイエンス株式会社(以下、ルカ)。株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は、2020年より同社に投資実行を行い、2022年のシリーズBの追加投資の際にはFTIパートナーである原田泰が同社の社外取締役に就任しています。

今回はルカCEOのサイ・リックさんをお迎えし、シリーズA2投資当初からキャピタリストとして同社に関わってきた原田との対談を通して、投資実行の経緯などのルカとFTIのこれまでの歴史や、ルカ側から見たVCとの関わりについて話を聞きました。

ルカへの出資を決定づけた、3つの判断軸

ルカ対談

原田:ルカは2018年末に設立された会社ですが、設立までの10年の間に積み重ねられた研究が基盤となっています。

ファウンダーである菅沼正司先生は、もともとミトコンドリア病の有効な治療方法を確率するための支援を行う社団法人に所属し、大学との共同研究などにおいてミトコンドリアを活用した創薬に向けた研究を進めていました。

また、その社団法人の個人サポーターのひとりとして当時関わっていたのがFTI代表パートナーの安西智宏でした。そこでの菅沼先生と安西の出会いが、のちにルカとFTIが関わっていく最初の接点になります。

そうした出会いから、ルカの創業が形となりはじめた際に関わったVCの1社としてFTIが参画することになり、FTIのメンバーとして私のルカとの接点がここで始まりました。

ルカに出資をする判断軸としては、大きく3つの評価点がありました。

1つ目は、ミトコンドリアを原薬にするという、まったく新しいモダリティであるという点です。これにより、現状のアンメットニーズを解決し、これまで対処療法しかなかった疾患の根本治療が可能になるといった将来性が見込めます。また、初期的ではありますが、薬効を示唆する動物データも出始めており、コンセプトがデータでも証明されつつありました。

2つ目は、経営陣の経験値です。

まず、菅沼先生は過去にもバイオベンチャーを創業した経験をお持ちです。また、ミトコンドリア創薬という研究自体が革新的であることはもちろんのこと、菅沼先生のエッジの効いたサイエンスの視点に魅了されたということです。ミトコンドリアという、さまざまな用途への適応・展開の可能性のあるモダリティは、正しいアプリケーションを選択する必要が求められますが、菅沼先生が考える選択の方向性に、非常にサイエンス力の高さがうかがえ、話しているだけでワクワクします。いつも菅沼先生の洞察の深いサイエンスには引き込まれます。

また、リックさんがルカに参画したことも大きいです。もともと製薬会社での長いキャリアをお持ちのリックさんが、ちょうどFTIがルカへの投資検討をしている頃に、CEOに就任されました。創薬についての知見があり、リーダーシップロードをとられてきた人というのは、案外多くありません。そんな経験をお持ちのリックさんがルカに来られたことで今後事業の成功角度が高まっていくだろうと、一緒にお話させていただく中でも感じました。

こうして投資条件がそろい、FTIとルカの関係が始まりました。

ミトコンドリア創薬の可能性を信じ、製薬会社からCEOに就任

原田:リックさんはもともと製薬会社にいらっしゃいましたよね。どのようなきっかけでルカのCEOに就任する流れになったんですか?

リックさん:私は台湾出身で幼少期はアメリカで過ごし、日本でキャリアをスタートさせました。最初に勤務したのも製薬会社で、研究開発の部署からはじまり、最後は執行役員まで務めました。ずっと製薬でのキャリアを積んできたんですね。

ルカとの出会いは、投資家の友人から話を聞いたのがきっかけでした。私は最初ミトコンドリアを単離して医薬品にするアイディアを聞かされたとき、「ミトコンドリアを薬にするなんて、そんなの聞いたことがない」と思いました。その後もミトコンドリアに関する研究についての論文を読み漁り、ミトコンドリアをさまざまな病気に適用できる可能性を感じ、医薬品としてのポテンシャルの高さを実感していったんです。

技術を評価したところ、ミトコンドリア移植というアイディアはじつは数年前からありました。ただしフレッシュで使わなければいけないというのが一般的な考え方で、数時間で使えなくなるというのが定説でした。ルカのサイエンスの面白いところは、“ミトコンドリアを保存できる”という点です。初めて聞いたときから数年経った現在でも特異的な技術ですが、当時このアイディアを聞いたときはとても驚きました。それを、ミトコンドリアを単離する革新的技術により、長時間の保存を可能にして薬にするというのです。ミトコンドリアを抽出する方法は40年ほど前から変わっていなかったのですが、その現状にブレイクスルーを起こし、医療・製薬業界にインパクトを与えうるものになると思いました。

そうして実際にCEOに就任する半年前から菅沼先生をはじめメンバーとディスカッションを深めていき、2020年7月に正式にCEOに就任しました。

「ミトコンドリアを保存できれば、医薬品として様々なアンメット・メディカル・ニーズに対応出来る」

ルカHPより ミトコンドリア

(ルカ・サイエンス株式会社HP

原田:CEOに就任した際、ルカの事業をどう推進していこうとお考えだったのでしょうか?

リックさん:ルカが創薬に取り組んでいるミトコンドリア病は指定難病のひとつで、細胞の生命維持のためのエネルギー生産などの役割を担っているミトコンドリアの機能低下が原因となって起こる症状を総称した呼び名です。ミトコンドリアはほぼ全身の細胞に存在しているため、機能障害によって脳や心臓、腎臓、消化管などの臓器をはじめ、耳や眼、筋肉などさまざまな部位に症状を示す場合があります。

菅沼先生の身近にミトコンドリア病を患っている方がいらして、ミトコンドリア病が身近にあるという環境からも、いち早く治療への解決策を見つけ出したいという気持ちで研究開発に取り組んでいます。

私が2017年にCEOに就任してから、ちょうどボストン・ハーバード大学のミトコンドリアに関する研究が発表されました。それが小児科の臨床研究で、小児心筋梗塞患者に対して、自家筋肉細胞由来のミトコンドリアを梗塞巣に局所投与したところ、予後が改善したという、センセーショナルな研究内容だったのです。

ここでもやはりミトコンドリアはフレッシュな状態でしか使えないというものでした。私は、ルカの技術力で現状フレッシュでしか使えないミトコンドリアを保存できるようにし、この研究と同じ効果を出せることができれば、医薬品として様々なアンメット・メディカル・ニーズに対応出来るビジネスとして成り立つと直感しました。

“分野横断的な能力”を備えた精鋭チームを作る

原田:ミトコンドリアは作用機序がさまざまであることからサイエンスが難しいということ、製造することが難しいこと、薬事が難しいことなど、取り組まなければいけない課題が多岐に渡り、分野横断的な能力が必要であると感じています。

チーム作りで何か心がけていることなどはありますか?

リックさん:多くのベンチャーは技術ファウンダーが経営を行いますが、私自身は技術ファウンダーではありません。一方で、長くファーマにいたので薬事をはじめ、臨床後期にも、経営にも携わった経験があります。何かに特化してディープなスペシャルティがあるわけではありませんが、まわりの人をいかに信頼して、いいチームを作っていくか、ひとりでは成し遂げられないことをチームで達成するかに注力しています。

また、先ほどの話に戻りますが、いかに医薬品として成功するかといったビジネス視点での考え方が好きなんですね。ミトコンドリアに関しても、保存が可能となることで臨床現場だけでなく医薬品として流通できるようになれば絶対に必要とされると確信しています。

そのためには原田さんのおっしゃるとおり困難なことも多いですが、ミトコンドリア創薬を実現するという目標に向けて、優秀なメンバーを集めて精鋭のチームを作ることが私のやるべきことだと思っています。

グローバルVCを含めたエクスターなるステークホルダーのマネジメント

原田:リックさんはまさにそのチーム作りが上手いと感じています。優秀な人材をアトラクトすること、そしてそのようなメンバーをチームにしてまとめあげることに長けていると実感します。

また、もうひとつ感じるのは、ミトコンドリア製剤が新しいモダリティであるがゆえに、製造をはじめとする諸々の資金が必要になることからVCの数も必然に多くなっていくと思うのですが、そのようなエクスターナルステークホルダーが多く管理も大変になる中で、そこのマネジメントもとても上手くやられていると思っています。

何か心がけていることなどはあるのでしょうか?

ルカ対談

リックさん:ファンドレイズする際は、とにかく“スマートマネー”が一番必要なんですね。つまり、資金だけでなく、事業構築をサポートする力です。私たちの進みたい方向性に同意してくれて、一緒に作り上げていこうという思いを持ち、支援してくれることが理想です。そういったサポーターの人とつながることが大切だと思っています。

その点で言うと、原田さんは大学時代の研究がミトコンドリア病に関連していたことからルカのサイエンスへの理解が深く、またこれまでの海外やVCでの経験からベンチャー経営についてもノウハウをご存知です。私たちと出資側のニーズや意思をうまく汲み取り、つなげてくれていると感じています。これまでの原田さんとルカの交流において、そうした実績を積み重ねていることで1人の人として信頼していますし、これからも信頼してサポートをお願いできると感じています。

原田:紹介するというだけなら簡単なことですが、出資される側とする側、お互いのニーズやコンテキストを深く理解した上でお繋ぎするということで比較的うまくいくと、これまでの経験から感じています。リックさんはじめ、ルカの企業力があったからこそでもありますが、製薬企業との共同研究の実現や、協調投資家の参画など、これまでに紹介した案件はうまく成果に結びついたケースですね。

シリーズB調達の際に40億円近く集まったのも、ルカの保有する技術とミトコンドリア創薬のポテンシャルが評価された結果であると思います。とくにアイコニックだったのは、イギリスのVCである4BIOが加入したということですね。国内だけでなく、国外からもVCが参入することでより視野を広げた事業の展開に期待していますし、それをサポートしていきたいと思っています。

グローバルVCが加入していることの良さや反対に大変なことはありますか? VC社外取締役と連携した会社のマネジメントで意識していることはあるのでしょうか。

グローバルなVCボードで、シビアながらレベルの高い議論

リックさん:グローバルVCが社外取締役に入っていることの良いことは、やはり日本だけでなく海外でも通用する企業になるための視点を得られることです。確実に日本の投資家だけと議論するよりも、自社の事業や技術に対する外部的な確証を得られます。

一方で、大変なこととしては、日本独自の考え方や文化を理解してもらうことが難しいことです。海外の視点では、そうした日本固有のやり方にサプライズがある場合があります。しかし私は、それはそれでいいと思っています。国内外問わず、よりエキサイティングなやり方を議論を通して進めていけば良いですし、そうすることでさまざまな視点から事業推進が可能になると思っています。

逆に、VCボードにグローバルな視点が入ることについて、原田さんはいかがですか?

原田:そうですね。グローバルな視点が入ることで、運営や事業推進についてレベルの高い観点でディスカッションができるボードであると感じています。

サイエンスの議論でもよりシビアな要求がなされることもありますが、それはつまり質の高さの現れだと思いますし、データ取りからマイルストーンの置き方など、あらゆることにおいて、エクイティストーリー・サイエンス・ビジネスすべて繋げてイメージできている印象です。そういう経営視点を持ったVCが参画し、ルカを支えていると思います。

私自身もほかのVCボードメンバーから学ぶことが多いですし、それをまとめているリックさんのやり方からも、学びを得ています。

リックさん:ストラテジックに、より建設的に議論が進むようには意識しています。回を重ねるごとに、考え方のすり合わせがうまく噛み合うようになってきたという感覚はありますね。

信頼関係構築のためには

原田:VCボードに対して、よりこうしてほしいということや、関わり方について考えていることはあるんですか?

リックさん:ベンチャーというのは成長の早い子供のようなもので、どういう変化をしていくのか予測が難しい局面もありますし、正解はないと思っています。日々、情報と変化が多く錯綜するので、“いかに早く現状についてまわりに伝え、方向性を整えていくか”ということが大切だと感じています。

情報の伝達スピードや周囲とのコミュニケーションスピードはとても重要で、経営層から社のメンバーに、さらにボードメンバーにいくのには時間を要してしまいます。決定事項を伝えるのに時間がかかってしまうのを防ぐために、ある程度の権限譲渡を現場にはしています。また、決定に際して現場で生じる不安感の解消は、私がすべき責任であると感じているので、うまくコミュニケーションを取りながら進めています。

原田:細部に捕らわれすぎずに、大きな視点で関わることは確かに大切ですね。VC側はハンズオン支援でありながらもマネジメントには携われないため、自分たちができることの限界値を知った上で行動することが求められます。そうした意味でも、信頼関係が大切であると感じます。

リックさん:議論が必要な際に、時間をあけずにフェイスtoフェイスでコミュニケーションを取ることが大事ですね。

限られた時間の中で築く信頼感

リックさん:話したい相手だったら、時間がなくてもいくらでも時間を作れます。その意味では原田さんとなら、いつでも関係なく連絡をしたいと思えます。信頼関係が構築されているからこそ、そう思えるんだと思います。

原田:私はいつも「学び」をもらったら自分からは「ギブ」することを大切にしています。リックさんと話していると、学びがあります。サイエンスやビジネスの話、またそこから透けて見えてくるリックさんのマネジメントスタイルから、学ぶことも多いです。

また学びを受け取るだけではなく、経営に関する示唆や、サイエンス・事業面のインサイト、人の紹介など、明確なギブが出来るように心がけています。

●ルカ・サイエンス株式会社
ミトコンドリアを細胞から単離・製剤化する革新的な技術を保有し、ミトコンドリア創薬というまったく新しいモダリティの開発に取り組む。ミトコンドリア障害に起因する様々な疾患に対して創薬開発が可能なプラットフォーム型のバイオ製薬企業。
https://ja.luca-science.com

代表取締役 CEO サイ・リックさん
ハーバード大学 歯科医学博士 コロンビア大学 医学博士
コロンビア大学病院 口腔・顎顔面外科、万有製薬株式会社臨床開発、MSD株式会社薬事領域長、アラガン メディカル・ディレクター、MSD株式会社執行役員 メディカルアフェアーズ統括を経て、現職。

●株式会社ファストトラックイニシアティブ 
「Capital For Life ベンチャーの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つベンチャーへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。

パートナー 原田泰
東京大学工学系研究科化学生命工学専攻修士。シカゴ大学大学院経営学修士 (MBA)
マッキンゼーアンドカンパニージュニアマネージャー、米国シカゴ大学留学、ARCH Venture Partners投資コンサルタント、Chicago Innovation Fund投資アソシエイト、武田薬品工業ボストンオフィス事業開発インターン・コンサルタントを経て、2019年よりFTI参画。