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【FTIメンバー紹介:プリンシパル・木村紘子】日本発のサイエンスで人々のペインを解決したい コンサル経験を強みに目指す“深い”支援

株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)のメンバー紹介をする連載です。今回は、今年11月に追加投資を行ったソニア・セラピューティクス株式会社(以下、ソニア)の社外取締役でありFTIプリンシパルの木村紘子(きむら・ひろこ)にインタビュー。FTIに参画した経緯や投資活動にかける思いなどを聞きました。

強く惹かれた“博士”の道

ーーこれまでの経歴や、FTIにJoinした理由を教えてください。

子供の頃から“博士”に憧れがあり、将来は科学者になりたいと思っていました。NHK特集などサイエンス関連のテレビ番組があるときには、幼いながら夜更かしして観ていました。当時から自然科学に関することにとても興味があり、何気ない日常生活で生まれる「なぜ?」という疑問について調べるとひとつひとつ体系立てて整理されていることに、わくわくした気持ちが湧き起こってくる感覚がありました。もともと秩序立てて理解することや新しい発見をすることが好きだったのも、関係しているかもしれません。また、新しく得たサイエンスの情報を何か関連する話をしているときなどに周りに話し、相手が話を面白がると、さらに面白さ・やりがいのようなものを当時から感じていました。

大学・大学院と東京大学に進学し、学部生から修士課程の頃は多重遺伝子の遺伝子発現制御について、博士課程になると大脳の高次記憶メカニズムに関する研究をしました。そうして研究に励む中、研究を追求することは素晴らしいと思う一方で、解明することのみならず、その事実を一般の人に説明し意義を発信すること、また研究成果を何らかの形で実際に社会に役立てることについて一層興味を持つようになりました。そこで、一区切りであるPhD取得後は、いったん社会人としてビジネスの世界に出る決心をしました。

そうしてコンサルティング会社に入社し、3年ほど在籍しました。ライフサイエンス分野に限らず、様々な業界での経営レベルのコンサルが求められる業務に日々携わりつつも、やはり自分はライフサイエンス分野で、サイエンスとビジネスを橋渡しするような業務を能動的にやりたい、産学連携のプロジェクトにも関わりたい、という気持ちが強まってきました。

その頃から、アカデミアにおける発見や成果を実際に社会で活かすにはどのような課題感があるのか、また、それを解決するにはどのような活動が必要なのかという観点で、関係しそうな職種の人に話を聞きに行くという活動をし始め、あるスタートアップイベントで代表の安西と出会いました。VC活動を行うと同時に大学とも連携していることや、教育からのアプローチも行っているということを聞き魅力に感じ、自分自身のやりたいことと方向性が似ているということからFTIに入社することを決めました。

法務に関わる部分までの深いサポート

ーー得意とする投資領域や、ソニアを投資先に選んだ理由・思い入れを教えてください。

おもに国内の、創薬・バイオ系の、創業期から成長期といった早い段階の企業を担当しています。コンサル出身であるという特長を活かす点では、事業計画や資本政策をはじめ、課題の整理、会社法などの法務に係る対応や知財など含め、会社経営・運営に関して幅広くバックアップしており、これはある意味強みと言えるかと思います。今後の目標でもあるのですが、特定領域の事業経験・深い専門知識に関しては専門家の協力を仰ぎつつ、企業成長に必要なことの全体像への理解、バックヤードまでをひととおりある程度深いところまでカバーし、気楽に相談できるような存在でありたいと思っています。

ソニアは、集束超音波(HIFU)によるがん治療機器開発を推進する2020年創業のバイオテックスタートアップです。超音波というとエコー検査のように“優しい”イメージがあるかもしれませんが、HIFUは文字通り超音波を1点に「集束」させるため、非常に強いエネルギーを患部に集めがん細胞を加熱壊死させる治療法です。イメージとしては虫眼鏡で光を集めて焦点部分を焼く感じに近いですね。実際には麻酔なしで行われ、患者さんによると「若干おなかがポカポカする」という感覚とのことです。同社は膵がんを対象としています。早期発見が難しく、見つかったときには既にステージが進んでいる、また使える薬剤が限られてしまい打つ手が非常に限られてしまうこの疾患において、非侵襲で麻酔の必要もなく、副作用もないこの新たな治療法に期待を寄せています。これにより、がん患者に光明が差すのではと思っています。

もともとHIFUの技術自体は以前から開発されていたのですが、安全性を担保しながら腹腔内に対して治療できる機器として臨床現場に広く普及するものはありませんでした。また、日本で医療機器ベンチャーというのはこれまであまり成功例がありません。ソニアの技術によって、きちんとした医療として日本発で世界に広めていけたらと思っています。

人と人の繋がりを大切に

ーー投資していてテンション上がったこと、達成感・充実感・やりがい・大変さを感じた瞬間はどんなときですか?

地道ではありますが、投資先の経営陣・メンバーの方々と信頼関係を構築できたときや、小さいことの積み重ねであっても投資先に何かしら貢献できたときに、やりがいを感じます。ビジネスでの成功はもちろんですが、それ以外に人と人の繋がりが深まることをうれしく思いますね。支援先の方々とキャピタリストは、同じ船に乗った仲間だと思っています。発言したことを盛り込んでいただいて事業が良い方向に進んだときや、会社の実績として着実に積み上がっていったときはとても喜ばしいです。

もちろん大変だと感じる場面もありますが、その場合は、自分自身、もしくはFTIとしての強みを発揮できる方向性で話し合いの場を設けたり、解決につながるような人材を呼んできたり、支援先の一助となるアクションを起こすことが大切だと思っています。

エグジットのその先も

ーー今後の投資活動についての展望・意気込みを教えてください。

日本発のサイエンスを基に、人のペインを真に解決できるソリューションの開発を実現したいです。今まで解決できなかった医療現場のニーズに解決策をもたらし、臨床で使用される医薬品等になる技術を支援していきたいです。

さらに、投資家としてエグジットやリターンを得ること(IPOやM&A後の株式売却による投資資金の回収)で終わりではなく、支援先の夢や目標に向かい一丸となって本当に実現する、患者さんが助かることを目指して尽力していきたいと思っています。

オペラを基点に楽しむ歴史や絵画

ーー休日の過ごし方、趣味について教えてください。

小学生の頃からオペラが好きで、高校生以降に本格的に聴き始めました。その後アマチュアオペラの舞台に参加する機会もあり、大学4年生の頃から時折合唱団で歌っています。オペラの影響で、ローマ史をはじめとする歴史や絵画などの芸術にもさらに興味が出て、それらを結びつけて楽しむことが好きになりました。

また海外旅行もオペラと関連づけて行き先を決めることが多く、ローマ等行きたい年を中心に、旅行期間中にオペラを上演しているヨーロッパの各都市を周遊したり、オペラに出てくる実在の建物等に赴いたりもしました。

最近はコロナ禍もありあまり行けていませんが、まだまだ行きたいところは山のようにあるので、落ち着いたらまた行きたいと思っています。