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【投資先対談】「医療機器」と「医薬品」の垣根を超える挑戦 “重さのあるコミュニケーション”で切り拓く|ソニア・セラピューティクス

ソニア対談

難治がんである膵がんを最初の治療対象とし、強力集束超音波(HIFU)による低侵襲がん治療機器開発をはじめ薬剤との組み合わせによる新たな治療モダリティの確立を目指しているソニア・セラピューティクス株式会社(以下、ソニア)。株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は、2020年のソニア創業初期からリード投資家として支援を行っています。

今回は、同社CEOの佐藤亨さんをお迎えし、シリーズA投資当初からキャピタリストとして支援に関わってきたFTIプリンシパル・木村紘子との対談を通して、投資実行の経緯やソニア側から見たVCとの関わりについて話を聞きました。

木村紘子のインタビュー記事はこちら

国プロの研究から創業したきっかけ

木村:もともとは村垣善浩先生(神戸大学教授、ソニア サイエンティフィックアドバイザー)がFIRST等の国プロ(政府研究開発プロジェクト)で取り組んでいた研究がソニアの基盤技術となっていますが、そこからベンチャー化しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

佐藤さん:膵がんは発見しにくく生存率が10%未満である難治がんで、現状限られた治療法しかないといった課題がある病気です。ソニアの創業は2020年なのですが、その前年、2019年というのは膵がん治療の研究開発において色々な“イベント”があった年でした。というのも、莫大な研究費をかけて開発され期待されていた膵がんに対する新規薬剤が、ことごとく失敗するということが起きました。

私自身はそれまでがんの治療薬を開発する製薬会社に在籍し、さらに開発品の販売を見据えてアジア法人の設立に関わり代表を務めるなど、がん治療を関わる仕事をしてきました。そのようななかソニアの共同創業者で東京女子医大の岡本淳特任准教授(当時。現ソニア取締役兼COO)、村垣善浩教授(当時)、東北大学の吉澤晋准教授(当時。現教授兼ソニアCTO)から過去の国プロなどを通じて積み上げてきた実績を聞いた際に、これまでにないアプローチによる治療法であること、またそれまでの研究データから、今後の膵がん治療を変えられる大きなチャンスになるかもしれないという希望を持ちました。

岡本からベンチャー設立の話を持ちかけられたときは「PK戦でいう“あとひと蹴り”をしてみないか?」ということだったんですが、実際にはひと蹴りではなく、PK戦自体は思ったよりも長い感じでしたけどね…(笑)

ソニア対談
(左)ソニア取締役兼COO・岡本淳さん

木村:佐藤さんは、創薬ではなく医療機器分野、とくに大型治療機器での創業というのは抵抗はなかったのでしょうか?

佐藤さん:私自身は、医療機器か医薬品かはこだわっていませんでした。治療においては、「安全性」と「有効性」の2軸で判断していてます。実際、事業を立ち上げてからさらに実感していますが、がん患者さんにとっては治療手段が医療機器によるものか医薬品よるものかというよりも、その治療が「安全で有効か」ということのほうが重要ということです。

もちろん、ビジネスの観点から見れば、がん治療を目的とした医療機器の開発は困難を極めるだろうとは思いましたが、可能性が少しでもあるのならばチャレンジしたいという気持ち、またそこまでの決心を持たなければ現状の膵がん治療を変えることはできないという思いが強くあり、代表として創業することを決めました。

FTIがリード投資家として名乗りを挙げた理由

木村:「PK戦が長かった」ということですが、どういったご苦労がありましたか?

佐藤さん:最初の資金調達がとても大変でした。助成金への採択は会社としての信頼にも繋がると思ったので複数応募しましたが、ことごとく落ちました。それ以外にも、大きめの出資を受けようとした矢先にそれが頓挫したりなどうまくいかず、本当に途方に暮れた時期がありました。岡本が「どん底」というバーに連れて行ってくれましたが、まさにどん底の状態でした。

しかし、大学および大学の共同研究先企業からの特許譲渡が完了し、治験機器を開発するための業務提携の見込みが立ってきてから上昇気流に乗り始めます。資金調達の歯車がまわり始め、フォロワーであれば投資を検討しても良いという会社が増え、出資ムードが高まってきたなか「リード投資家がいるなら出資する」という声が挙がりました。

そして、リードをとってくれたのがFTIでした。誰がリスクを取るのか、という重要なときに先陣を切ってくれました。

木村:そもそものソニアとFTIの出会いというのは、国プロ時代に村垣先生とFTIの木村廣道安西智宏との接点がきっかけでした。木村と安西の2人は東大にも籍を置いていて、国プロにも関わっていました。その活動を通して、村垣先生の精力的な医工連携、社会実装に向けた推進活動や考え方とFTIとしての方向性がリンクし、現在に繋がっています。

ソニアの技術はアカデミアで長くあたためられてきた技術でした。そのような条件が重なり、日本発として前例が少ない医療機器分野での世界的な成功事例を出したいという気持ちから、FTIはリード投資家として名乗りを上げることを決めました。創業メンバーの熱量の高さや研究に真摯に取り組む姿、佐藤さんの人を巻き込む力に、私自身も共感しました。

ライフサイエンス特化のFTIが、医療機器ベンチャーの投資家になるメリット

佐藤さん:FTIがリードをとってくれたことで、そのほかの投資家が動きやすくなったことは間違いありません。また、シリーズAだけではなく、シリーズBもFTIの後ろ盾があったからこそだと思っています。成功事例の少ない医療機器、治療機器ベンチャーの成功への壁を誰かが突破しなければならないという“思い”を共有できていることが、双方の信頼を高めていると思います。

「足りない」ことを理解し、それをいかにして「埋める」かを一緒に模索していけていることが良い関係性を築けている理由ではないかと思います。「これがないからダメ」ではなく、「ないからどうしていくか」という議論を重ね、常に考え行動してくれているのはありがたいです。初期投資の際のそうした議論や構想が、じつは今のソニアの方向性の土台になっています。あのときのディスカッションがなかったら具現化の途中で失敗していたかもしれません。

ソニアの技術の社会実装には、臨床試験の成功が絶対に必要です。そのため、臨床試験のデザインに対する知見や理解ができること、そして議論できる人材からのサポートが重要です。がんの治療機器という性質上、医療機器領域だけに留まらない様々な専門性を有した方々とタッグを組まなければ、開発を進める上での課題を乗り越えることは難しいです。

そうした医療機器と医薬品の垣根を超える新規治療モダリティへの挑戦に対し、ライフサイエンス特化だからこそFTIが力を貸してくれていると思っています。まだ、手探りの状態ではありますが、一緒に初の成功事例を作れたらうれしいですね。

信頼を築き上げた、“重さのあるコミュニケーション”

木村:これまでディスカッションを重ねてきた中で信頼関係を築くことができていると感じていますが、佐藤さんはいかがでしょうか?

佐藤さん:あげ出したらキリがないのですが、小さなことから大きなことまで都度相談に乗っていただいているので、私も信頼関係は構築できていると感じています。ときには紘子さん(木村)から耳の痛いことも言われることがありますが、それが新たな気づきとなり、会社の成長に繋がっています。私は耳の痛い話を聞くことで本質に近づけることがあると思っています。

私自身、かっこよく見せることが得意ではないので、良いことも悪いことも正直ベースで打ち明けています。その上で、今後どうしていくかという議論をするようにしています。

木村:佐藤さんが正直にお話してくださるので、こちらも一層正面から正直に向き合おうという気持ちで日々のコミュニケーションを意識しています。佐藤さんの発言を受けて質問しつつも、こちらも後でリサーチしたことや意見を隠さずぶつけることでさらに議論が進み、発展していく感覚があります。また、認識が違うことがあれば、なぜ違うのかを掘り下げ、すり合わせていけるように努力しています。

そうした“重さのあるコミュニケーション”を重ねてきたことが、現在の信頼関係に繋がっています。たとえ細かい時間であってもタイムリーに、気軽にコミュニケーションができること、二人三脚ができることが、私たちの関係性の強みだと思います。

佐藤さん:FTIがリード投資家として常に伴走してくれていますが、あくまでも主体は我々(ソニア)であるべきだと思っています。ただ、さまざまなことを乗り越えていくために何をしなければいけないのかということについて、FTIが問いを与えてくれて深堀りしてくれることで、新たな思考のきっかけを作ってくれています。

繰り返しにはなりますが、これまで誰も成し遂げていない新しい治療モダリティの医療機器で、難しい膵がん治療の将来を切り拓いていく上で、ソニアだけでなくFTIのみなさんと共に同じ方向を見つめ模索し、挑戦していくことができているのは、両者の信頼関係や密なコミュニケーションの賜物だと思います。

ソニア対談

●ソニア・セラピューティクス株式会社
強力集束超音波(HIFU:High-Intensity Focused Ultrasound)による低侵襲がん治療機器の開発を推進。難治がんである膵がんを最初の治療対象とし、次世代型HIFU治療装置の開発、さらには薬剤との組み合わせによる新たな治療モダリティーの確立を目指す。
https://www.sonire-therapeutics.com

代表取締役社長兼CEO/創業者 佐藤亨さん
東京理科大学理工学部応用生物科学科 卒業。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学修士(MBA)修了。東京女子医科大学・早稲田大学共同先端生命医科学専攻(博士後期課程)在学中。小野薬品工業でオプジーボの海外展開に従事。海外法人設立・代表として経営に従事。オンコリスバイオファーマで事業企画部長・University of Pennsylvania発のLiquid Biotech USAのBoard Memberを歴任。2020年2月にソニア・セラピューティクス株式会社を創業。

●株式会社ファストトラックイニシアティブ 
「Capital For Life ベンチャーの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つベンチャーへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。

プリンシパル 木村紘子
東京大学理学部生物化学科卒業。同大学大学院理学系研究科修士課程修了。同大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(医学)。株式会社シグマクシスで経営コンサルティング、M&Aアドバイザリー活動に従事。2013年よりFTIに参画。2017年3月まで東京大学大学院薬学系研究科特任助教を兼任。監訳書に、「アカデミア創薬の実践ガイド スタンフォード大学SPARKによるトランスレーショナルリサーチ」(東京大学出版会)がある。