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【投資先対談】「患者第一」で産婦人科ゲノム検査をゼロから開発 “先読み思考”のFTIと切り拓く世界市場|Varinos株式会社

Varinos対談

高度なゲノム解析技術、ノウハウに基づいた「子宮内フローラ検査」および「PGT−A検査(着床前診断)」、臨床エビデンスを伴うラクトフェリンサプリメントの販売を手掛けているVarinos株式会社(以下、Varinos)。株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は2022年8月に初回投資を実行し、医療・ヘルスケア分野への強みを活かし、ハンズオン支援を行ってきました。

今回は、Varinos創業者で代表取締役CEOの桜庭喜行さんをお迎えし、同社社外取締役にも就任しているFTIプリンシパル・木村紘子との対談を通して、投資実行の経緯やVarinos側から見たVCとの関わりについて話を聞きました。

木村紘子のインタビュー記事はこちら

「実弾」としてソリューションを打ち込める技術力

FTI木村:Varinosの共同代表である桜庭さん・長井さんとは2018年くらいの創業してまもなくの時期に出会いました。当時からお2人の新しい検査を開発することへの意気込み、ゼロから新しいものを生み出すということへのバイタリティをひしひしと感じ、とても印象深い出会いだったと記憶しています。現在ほどフェムテックへの注目度が高くない時期から、少子高齢化や晩婚化、高齢出産など社会的なペインが深い領域に、実弾としてソリューションを打ち込めるというVarinosの技術力に強い魅力を感じました。

ちょうどその頃はFTI2号ファンドとのタイミングが合わず見送ることになってしまったのですが、次の3号ファンドで2022年に満を持して投資実行に至りました。結果的にシリーズCでの初回投資となりましたが、ローンチした検査が徐々に花開きつつある時期に差し掛かり、さらなる成長が期待できました。

前職で痛感「医師のペイン」の解決に技術で貢献

Varinos桜庭さん:前々職では、研究者としてゲノム検査の開発を行っていました。ゲノム情報を世の中に還元し、人々の役に立ちたいという気持ちはVarinos創業前からずっと持ち続けてきました。

そんな中、2016〜17年に技術の発展とともに世界的にゲノム検査が医療現場で活用されるようになりました。しかし、世界に比べ日本では活用が進まず、国内に「プレイヤーがいない」という問題を、企業の一員としてだけではなく一研究者としても痛烈に実感しました。はじめは冗談まじりに自分で会社を作ればいいと思っていたのですが、当時同僚だった長井ときちんと実現しようという話になり、2017年にVarinosを立ち上げることになりました。

FTI木村:ゲノム検査はさまざまな領域に展開することが可能ですが、創業後の最初の検査サービスとして「子宮内フローラ」を着想した理由はありますか?

Varinos桜庭さん:前前職で、産婦人科の分野に関わっていたことが大きいです。また、産婦人科領域とゲノム検査の相性が良いというのも理由にあります。

加えて、産婦人科医のペインを解決したいという思いもありました。当時からすでに実用化されていた、着床前診断という流産の原因となる染色体異常の受精卵をゲノム検査(PGT-A)で検出する技術があります。しかし、そこでパーフェクトな受精卵を選んでも、順調に出産まで至る確率というのは7割程度という現状。100%に近づくために、まだそこに技術が役立つ余地があるのではという思いがあり、不妊治療領域でのゲノム検査開発を始めました。

私自身も子供を持つ中で、不妊治療に対する意識も高まりました。「産みたい人が産める」という環境づくりの一部分でも、科学の力で貢献したいと強く思っています。

検査とサプリ事業の”両輪”はセットで回す

FTI木村:Varinosは、「子宮内フローラ検査」や「着床前診断」のゲノム検査と、ラクトフェリンのサプリメント展開という大きく2つの事業を行っていますが、このバランスはどのように考えていますか?

Varinos桜庭さん:軸はもちろんゲノム検査です。しかし、検査が「良い」「悪い」がわかるだけでは、患者さんのためにはなりません。悪い結果が出たときの改善策もセットで提供できないかぎり、いくら良い検査を開発しても意味がないと思っています。

その改善策のひとつが、現在展開しているラクトフェリンのサプリメントです。創業する少し前に、海外の研究によって子宮内にラクトバチルスという乳酸菌が多いと妊娠率が高く、流産や早産の確率が低くなるということが明らかになりました。つまり、このラクトバチルスを増やす(または、そのほかの菌を減らす)ことで、不妊や流産・早産のリスクを軽減させることができるということです。

そこで、検査に紐づくソリューションも提供したいと、世界中の様々な論文を調べ、ラクトフェリンという栄養素に可能性を見出しました。その後、医師らとの共同研究によって、ラクトフェリンによりラクトバチルスが増加することがわかりました。実際に治療法を求めている医師も多かったため事業として提供し始めると想定以上に需要があり、今では検査事業に加えてもう一つの柱になっています。

FTIは「言葉が通じる」投資家だった

Varinos桜庭さん:実際に医療現場で活用される検査をゼロから開発するにあたり、FTIにはやはり医療・ヘルスケア分野への深い知見、サイエンスの視点でのサポートに期待を寄せていました。事業への理解や前提知識が広く深いため、市場展開においてどんな障害があるかの予測が立てやすかったり、臨床研究におけるお作法を心得ているといったことが、私たちの事業推進にとても寄与していると感じます。サービスの根幹、Varinosの根底にあるサイエンスの部分で「言葉が通じる」投資家であり、スムーズに意思の疎通が取れること、コミュニケーションコストがかからないことが、とてもありがたいです。

FTI木村:FTIからは社外取締役を務めていらっしゃる王惠民(けいみん・わんぐ)さんの紹介もさせていただきましたね。

Varinos桜庭さん:王さんは、これまでの豊富な経験に基づいた的確なアドバイスを与えてくれます。それにより、不必要な失敗を未然に防ぐことができています。

FTI木村:今後は新規事業について一緒に考えましょう、というところですね。

Varinos桜庭さん:世の中にはゲノム検査により解決できる課題がたくさんあります。当初は、スタートアップの私たちが早く患者さんに貢献できる自由診療の不妊治療領域においてのゲノム検査に注力していましたが、今後はがんや遺伝性疾患など、さらに視野を広げた検査の開発に挑戦していきたいです。

FTI木村:Varinosが創業した当時のフェムテック界隈というのは、必ずしもサイエンスに基づいてビジネスを展開しているわけではありませんでした。私自身としては、「フェムテック」の決め打ちで投資先候補の選定をしたわけではなく、FTIの得意とする医療分野で、サイエンスに基づいて社会的に根深いペイン解決を望むことができること、また日本発で世界に通用するソリューションを作り上げていくことができるという点で、Varinosに高い期待を寄せていますし、今後もさらなる成長のためにサポートしていきたいです。

「自然体で接することができる」関係性

FTI木村:桜庭さんは、とても親しみやすく、チャーミングな方だなと感じています。一生懸命な姿勢かつオープンに話をしてくれるので、私も自然体で接することができていますし、機動力はあるけれど朗らかな性格をお持ちで、チームをひとつにまとめあげる上でも、投資家相手でも、敵をつくらずに会社を良くしていける良いリーダーだと思います。

Varinos桜庭さん:FTIとコミュニケーションを重ねることで、会社の成長加速をさらに押し上げていってくれていると感じています。木村さんだけでなく、FTIのもうひとりの担当である加藤さんからもいろいろな提案を受けます。社内では思いつかなかった質問を投げかけてくれることで、私たちも新たな気づきを得られています。

FTI木村:取締役の齊藤さんや平川さんも、コロナ禍でなかなかお会いすることができずにいたのですが、実際にお会いして会話を重ねることで、コミュニケーションがどんどん深くなり、信頼感が高まっていきました。

Varinos桜庭さん:齊藤は獣医の免許を持っており、製薬会社などの医療業界への経験や知見が深く、一方で平川は会計士というまったく異なるバックグラウンドを持っています。3人でビジネスをしていくというのは、それぞれの豊富な経験を活かすことができ、とても心強く感じています。

FTI木村:桜庭さんは3人の中でも「パッション」が強いお人柄だとお見受けしています。桜庭さんが社内で熱量を伝えるときに心がけていることはあるのでしょうか?

Varinos桜庭さん:社員に必ず伝えることがあります。それは、「迷ったら患者さんを見よう」ということです。会社としての成長ももちろん大切ですが、第一に考えるべきは患者さんのメリットになるかどうかということです。患者さんに貢献するためにVarinosがあるということを常に念頭に置いています。また、それを投資家に伝えることも重要だと思っています。
FTI木村:桜庭さんは「患者さんにソリューションを」という強い思いをお持ちで、会社がうまくいく案件ということではなく、患者さんのペイン解決のためにプロダクト開発に取り組んでいらっしゃいますよね。今後も桜庭さんをはじめVarinosの向かう先に、FTIのサイエンスへの強みをかけ合わせ、寄り添った支援を行っていきます。

Varinos対談
(左から)Varinos取締役COO兼CSO・齊藤洋一さん、FTI木村、Varinos代表取締役CEO・桜庭さん、Varinos取締役CFO・平川秀年さん

●Varinos株式会社
次世代シークエンサー(NGS)を活用したゲノム検査の開発・提供を行っている。2017年に「子宮内フローラ検査」を世界で初めて実用化。「着床前診断」を医療機関に提供している。また、妊活・不妊治療に取り組む人向けの「腟内検体採取式 子宮内フローラCHECK KIT」やサプリメント「女性のフローラから考えたラクトフェリン」や「子宮で過ごす赤ちゃんのことを考えた葉酸・ビタミンD・ラクトフェリン」を展開。中小企業基盤整備機構主催「Japan Venture Awards 2020」で経済産業大臣賞を、「東京ベンチャー企業選手権大会2021」では優秀賞(産業労働局長賞)を受賞。
https://varinos.com

代表取締役CEO 桜庭喜行さん
埼玉大学大学院博士課程修了。博士(理学)。理化学研究所ゲノム科学総合研究センター、米国セントジュード小児病院、GeneTech株式会社、イルミナ株式会社を経て、2017年Varinos創立。代表取締役CEOに就任。

●株式会社ファストトラックイニシアティブ 
「Capital For Life ベンチャーの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つベンチャーへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。

プリンシパル 木村紘子
東京大学理学部生物化学科卒業。同大学大学院理学系研究科修士課程修了。同大学大学院医学系研究科博士課程修了。博士(医学)。株式会社シグマクシスで経営コンサルティング、M&Aアドバイザリー活動に従事。2013年よりFTIに参画。2017年3月まで東京大学大学院薬学系研究科特任助教を兼任。監訳書に、「アカデミア創薬の実践ガイド スタンフォード大学SPARKによるトランスレーショナルリサーチ」(東京大学出版会)がある。