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【投資先対談】密な連携で「リーズナブル」に売却 上場後資本政策の裏側|株式会社メンタルヘルステクノロジーズ(After IPO編)
2023.12.12
企業の健康経営の基盤のひとつである「社員の心の健康」に着目し、厳選された産業医の紹介を行う「産業医クラウド」をはじめ、従業員の健康をサポートするさまざまなサービスを展開している株式会社メンタルヘルステクノロジーズ(以下、MHT)。
株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は、2017年初回投資時からリード投資家として支援を行い、2022年3月に東証マザーズ上場を果たしたのちも、さらなる企業成長のために支援を行ってきました。
今回は、MHT代表取締役社長の刀禰真之介さんと取締役社長室長兼コーポレート本部担当の松浦優さんをお迎えし、FTI代表パートナー・安西智宏、ベンチャーパートナー・佐藤正晃との対談を通して、FTIの投資実行の経緯やMHTとしてのVCとの関わり方について話を聞きました。
▶︎前編(投資実行から上場前までのお話|Before IPO編)はこちら
FTIは上場後の株式売却に「極めて“リーズナブル”な考え方」をしてくれた
MHT松浦さん:私はMHTが上場してすぐの2022年4月に入社しました。刀禰と出会ったのは2020年のコロナ禍でしたが、上場後の資本政策をはじめ、M&A等も含めて企業価値・株式価値向上に資する広範な役割を担うということに期待いただき、入社に至りました。
MHT刀禰さん:当時から上場前後の資本政策や成長戦略について課題意識を持っていました。上場前はVC比率を3割程度に抑えてはいましたが、入社後まずは喫緊の課題であった上場後の株価形成を考慮したVC株の売却について、松浦に力になってほしいと思いました。
MHT松浦さん:FTIの持ち株を売却するうえで、安西さんの考えは極めて「リーズナブル」だと感じました。VCは上場後もファンドの存続期間中は株を持ち続けるという選択もできますが、MHTにとって何が一番良いかをディスカッションした結果、上場後のフェーズに合った投資家に引継ぎ、さらに大きな成長を目指すという方針で、意見が一致していました。つまりは、上場後の更なる成長加速のために次のフェーズを共にする観点でVCから強力な事業の推進が可能な事業会社に株を引き継いでいき、大きな事業成長をしていくということです。
FTIもLPに対してコミットしたエクイティ・リターンを実現するというVCにとって当然の観点から考えたときに、私の話が合理的である(=持ち続けてリターンが最大化し得るタイミングで一括売却するというある意味では賭けのような売却方針を取るのではなく、段階的な売却を合理的に許容し戦略的パートナーに引継ぎ、非連続な成長の中で段階的売却を通じてリターンを最大化する)と理解いただくことができて話が早く、投資家として極めてフェアかつリーズナブルに意思決定いただけたと思っています。
いかに意味のある相手に戦略的に売却するか
FTI安西:スタートアップの資本政策は上場前後で大きく切り替わって行くため、多くの経営層が苦労するところでもあります。上場するまでの資本政策はきちんとしているスタートアップが多いですが、上場後においても会社にとって意味のある相手先に、ファンド持株を売却していけるよう、戦略的に考えていくことが大事だと思っています。その点、MHTさんも同様の考え方を持っていて、私たちFTIの考える資本政策と方向性がマッチしました。
シード・アーリーから関わるFTIのようなハンズオン型VCは、上場時の持株割合がどうしても高くなります。VCファンドは必ず株式を売る存在であるため、大量に持っているほど売り圧力がかかり、一般投資家の買い控えを起こし株価が下がる、いわゆるオーバーハング懸念があります。そのため、いかに適切なタイミング・スピードで相手に持株を売り、投資先の上場後の株式成長を軌道に乗せるかが私たちの役割でもあります。売買の流動性があるタイミングで、株価に影響を与えない範囲で、しかも長く保有してくれる優良な相手先にいかに売却していくかについて、刀禰さんはじめ松浦さんとは何度も議論し、戦略を練りました。
MHT刀禰さん:私も上場後に何よりも意識したことの一つが、FTIなどのVCの持株を着実に売却することです。上場後の株式を保有してくれる投資家や事業会社は、ただひたすら地道に探し回りました。そのときに意識していたのは、MHTは日本の上場企業 約4,000社から選ばれるのではなく、アジア2万社の中から選ばれるような企業になるんだということ。その姿勢を持ち、理想的な株主に株を保有してもらえるよう奔走しました。
※上場後の資本政策の状況は、四半期決算の報告を参照
MHTの取り組みは、上場後の資本政策が重要であることを示す一例となる
MHT松浦さん:大きな成長を期待されるグロース市場の上場企業としての責任を果たしていくためには、成長を共にできる「正しい」投資家に保有してもらう必要があります。私たちMHTが弊社の株式を保有してほしいと望む投資家、特に日本を代表するような事業会社にMHTのことを信頼してもらう必要があると考えました(温故知新という言葉がありますが、伝統的な日本を代表する企業と私たちのような新しい風を巻き起こす新興企業が有機的に連携すべきと思っております)。
先方の事業の理解を深め、MHTの株を保有することのメリットを丁寧に説明し、信頼関係を築くことに注力しました。そうした努力が実を結び、私たちと同じくらいの熱量で産業医業界に切り込むことに関心を持ってもらえました。双方に対して私がある意味FA(=フィナンシャル・アドバイザー)のような役回りで丁寧なブリーフィングを行った上で、候補企業とFTIを引き合わせるということもしました。
FTI安西:FTIがなぜMHTに投資したのか、私たちが掲げる理念や思い入れを、候補企業に丁寧にご説明した上でバトンタッチしました。結果的に、VCとして上場後株主に株式をわたす儀式のような、熱い思いを継承する非常に良い機会になったと思っています。今回のMHTの事例は、上場前だけでなく上場後を見据えた資本政策が重要であることを示す一例になるだろうと感じています。
MHTとFTIが築いた信頼関係
FTI安西:FTIとMHTは立場が違いますが、事業成長の考え方やヘルスケア産業全体の発展を目指している点など、向かうべき方向性について理念が共通しています。お互いの立場をリスペクトしながら、「言いたいことが言える」関係ができていると感じています。また、金融やコンサルといった個々人のバックグランドが共通していて、これまで経験してきたことや培ってきた知見、構築してきたネットワークを共有できることも信頼感に繋がっています。
FTI佐藤:当初からVCという立場から、MHTを「ガチガチに管理しない」ことを意識していました。革新的な事業を成し遂げるためにも、刀禰さんのやりたいことを制限するのではなく、ある程度「片目をつむりながらも伴走する」といった付き合い方がよりよい関係性を築くことができると思います。
MHT刀禰さん:投資を受けている立場として、リスク情報は早めに知らせるように心がけています。スタートアップという性質上、お金との戦いは避けられません。信頼できるVCとの二人三脚によって手堅い成長を望めると思っているので、両社の協力体制を強固にするためにも、コミュニケーションは密にとっています。
MHT松浦さん:みなそれぞれがそれぞれの分野でエキスパートであることを理解し、リスペクトの気持ちを持つことが大切だと思っています。投資家は投資家の専門性が、事業家は事業家の専門性があります。企業価値・株式価値を向上させることは極めて大変な労力を要する営みですが、FTIとMHTが歩んだ様な信頼関係の下で投資家と事業家が手を取り合い二人三脚で取組んでいく事例が増えると嬉しく思います。
●株式会社メンタルヘルステクノロジーズ
「ウェルビーイングのスタンダードを創る」というビジョンを掲げ、労働者のメンタルヘルス問題解決、産業医を軸にクラウドサービスを活用した企業のメンタルヘルスのケア体制の構築・運用に取り組む。
https://mh-tec.co.jp
代表取締役社長 刀禰真之介さん
神奈川県出身。明治大学政治経済学部を卒業後、2002年にデロイト トーマツ コンサルティング株式会社(現・アビームコンサルティング株式会社)、2004年にUFJつばさ証券株式会社(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社)、エンジェルジャパン・アセットマネジメント株式会社、2008年に株式会社環境エネルギー投資で勤務。ヘルスケア領域の社会問題を解決できるような事業に取り組みたいと志し、2011年3月に株式会社Miew(現・株式会社メンタルヘルステクノロジーズ)創業。
取締役社長室長兼コーポレート本部担当 松浦優さん
埼玉県出身。慶應義塾大学経済学部を卒業後、2015年よりみずほ銀行にてM&Aアドバイザリー業務及び資金調達業務に従事。2016年にリンカーン・インターナショナルにて主に日本企業による海外M&Aのアドバイザリー業務に従事。2019年より外資系PEファンドであるICGの東京オフィス立ち上げに際して立ち上げメンバーとして参画し、消費財・ヘルスケア関連業界を中心にアジア・太平洋地域における投資を担当。2022年当社入社。第一生命保険、H.U.グループ、オムロンとの戦略的パートナーシップ構築、株式会社明照会労働衛生コンサルタント事務所のM&A等を主導。
●株式会社ファストトラックイニシアティブ
「Capital For Life ベンチャーの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つベンチャーへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。
代表パートナー 安西智宏(安西智宏のインタビュー記事はこちら)
東京大学理学部生物学科卒業。同大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(生命科学)。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校 AMP修了。ファンド運営責任者としてバイオテック・ヘルステック領域の案件発掘から企業設立、育成、投資回収までの業務全般を担当。代表取締役としての投資先企業の設立をはじめ、ハンズオンでの経営支援に10年超の実績を有する。FTI参画前は、アーサー・D・リトル(ジャパン)株式会社で国内外企業の経営コンサルティングに従事。東京大学特任准教授、京都大学客員准教授等を歴任。2012年には内閣官房 医療イノベーション推進室に在籍。「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」等の政府系委員を歴任。「Japan Venture Award 2021」ベンチャーキャピタリスト奨励賞受賞、Forbes JAPAN「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家2021」第2位。日本ベンチャーキャピタル協会 産学連携部会委員。
ベンチャーパートナー 佐藤正晃
宮城県出身。明治大学商学部卒、同大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科修了 経営管理修士(MBA)。マイクロソフト パブリックセクター 部長、日本医療部門総責任者。その後、バイエル薬品 経営企画統括本部 部長として、医薬品デジタルマーケティング部門の統括、DX戦略策定・戦略実践を行う。2015年1月からファストトラックイニシアティブ参画、ヘルステック分野の投資を統括する。川崎市産業振興財団 ナノ医療イノベーションセンター 研究員等を歴任。