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【投資先対談】ヘルスケア分野の行動変容に注力 無数のアップデートでとことんユーザーと向き合う|エーテンラボ株式会社

投資先インタビュー A10Lab

ユーザー数140万人を超える国内最大規模の習慣化アプリ「みんチャレ」の開発・運営を通し、人々が積極的に行動することで幸せになる世界を目指しているエーテンラボ株式会社(以下、エーテンラボ)。株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は2021年2月のプレシリーズAでの新規投資以来、2022年2月2024年1月にも追加投資を実行し、医療・ヘルスケア分野への強みを活かしてハンズオン支援を行ってきました。

今回は、エーテンラボ創業者で代表取締役の長坂剛さんをお迎えし、事業運営のパートナーとしても伴走してきたFTIアソシエイト・加藤尚吾との対談を実施。投資実行の経緯やエーテンラボ側から見たVCとの関わりについて話を聞きました。

加藤尚吾のインタビュー記事はこちら

ユーザーに向き合う「みんチャレ」を高く評価

FTI加藤:長坂さんとFTIの出会いは、私の大学院時代の恩師でありFTIイノベーションエキスパートの仙石慎太郎が主催したICTヘルスケア研究会がきっかけだったとお聞きしています。

エーテンラボ長坂さん:私がまだソニーに在籍していたころにお声がけいただき、複数回にわたり、その研究会に出席・登壇させていただきました。

ソニー時代に「みんチャレ」をはじめいくつかの新規事業を手がけていたのですが、いずれは独立しようという気持ちがありました。そうして実際に「みんチャレ」で独立するというタイミングでスタートアップのイベントに参加し、そこでFTI代表パートナーの安西さんとICTヘルスケア研究会以来、2度目の再会をしました。

FTI加藤:創業して事業を進められていく中で、改めて「みんチャレ」の方向性を定め、資金調達していこうというタイミングでFTIにお声がけいただき、そこから私も関わらせていただいています。

個人的には、「みんチャレ」の“とことん”ユーザーに向き合う点を、とても評価しています。行動変容により治療や予防を実施するという文脈では、みんチャレをSaMD(※1)として承認を狙っていくという構想もありました。

しかしながら、SaMDやDTx(※2)は承認プロセスの関係上、開発がシーケンシャルなフローで進まざるを得ないという現状があります。つまり、承認・保険適用に向けた出来上がりの形が起点としてあって、臨床研究・治験が進められたり、情報設計・UI/UXが一部決められたりします。

プロセスとしては正しい開発工程なのですが、これだとユーザーのフィードバックを受けづらいというデメリットがあります。開発したのはいいものの、患者さんに実際に使ってもらえるソリューションになっているのかという点において、私はまだ課題が残されていると感じています。

その点において、一般コンシューマー向けではあるものの、“リアルワールドでのユーザーの熱狂”が「みんチャレ」には確かに存在していて、それが最大の強みだと思っています。

行動変容のソリューションの質はどれだけのユーザーの声を正しく反映してきたかという量に依存すると考え、ビジネスモデルはそのあとの検討事項であるという議論をFTIでは以前からしていて、それにピッタリハマったのがエーテンラボでした。

「ヘルスケアの方向性」についての見解が一致

エーテンラボ長坂さん:行動変容に関する課題というのは、誰しもが持つ課題です。

ですが、それ以前に「行動変容する課題が顕在化していない」、つまり行動変容の必要性に気づいていないという課題がまず先にあると感じていました。いかに「はじめる行動変容を促すか」を追求することが、世の中に幸せな人を増やすことにつながると考えました。

そのソリューションがまだないということ、またソニー時代の「みんチャレ」運営時点でpeerサポート(※3)効果に確信を持っていたため、ビジネスモデルの実証をしていないなかでも創業を決めました。

なによりユーザーに愛されているサービスであるという自信がありましたし、よりスピード感を持って事業展開をしていくことが成功のためにも重要だと感じていました。2015年に作ったアプリですが、2年後には完全に独立する形となりました。

投資先インタビュー A10Lab

エーテンラボ長坂さん:それまでさまざまな習慣化カテゴリーがあった「みんチャレ」ですが、よりヘルスケア領域にフォーカスするとなったのは、その分野に精通しているFTIとの意見交換を重ねたことも大きい理由のひとつです。

「これをやったらよくなります」というような提案ではなく、ユーザーの体験の中から最適解を選出しブラッシュアップしていく。ヘルスケアはこうあるべきという方向性がエーテンラボとFTIで一致していました。「みんチャレ」は1,000回以上のバージョンアップを繰り返しており、そうした点でも評価してもらえました。

KPI公開に裏付けられる自信の理由

FTI加藤:現在はとくに企業や健康保険組合、自治体との協業を進めていますよね。一般ユーザーが多かった創業当時と比べてこのような変遷を経たのにはきっかけがあったんでしょうか?

エーテンラボ長坂さん:より多くの人の行動変容を促すという観点から、働く人にリーチを持っている企業や、高齢者にリーチを持っている自治体にアプローチすることにしました。

ヘルスケアに舵を切りましたが、一般の人は一度病気になったりして健康を害さないと、自分の健康に投資しません。一方で企業や健保、自治体には、社員や保険者を「健康にさせたい」というニーズがあります。この部分に着目しました。

FTI加藤:先日の資金調達リリースでは、改めてそういったターゲットに向けて事業を進めることを明示されました。

また、そのなかで「みんチャレ」のロジックモデルも公開されていますよね。このロジックモデルはFTIも参画後に作成に携わらせていただきましたが、こうして外部にもオープンにした理由はありますか?

みんチャレ フレイル
みんチャレ 禁煙

エーテンラボ長坂さん:ユーザーのQOLを上げ、医療費を下げるのが目的のヘルスケアアプリは、世の中にたくさんあります。

私は、医療やヘルスケアは、結局は効果が大事だと考えています。それが社会にインパクトを与えうる効果であると示すことができないと、数あるサービスのなかから「みんチャレ」を選んでもらうことができないと感じ、公開しました。社会的インパクトを起こすことに感度が高い方からSNSでロジックモデルを載せたプレスリリースを引用いただいたり、有識者にご注目いただきました。

意思決定の数・質の向上を目指す

FTI加藤:私から長坂さんの大事にされていることを一言で形容するなら「Fairness」(公平性)だと考えています。ロジックモデルの公開もそうですが、長坂さんの経営も非常にオープンな方法をとられていると感じます。

組織設計も非常にフラットであることが特徴的で、ほかのスタートアップにはない独特な企業文化がありますよね。長坂さんの思いが社内でも浸透し、みんながミッションドリブンで社会課題の解決が一番のモチベーションになっていると思います。

エーテンラボ長坂さん:社会に影響を与えたい、世の中に何か価値を与えたい、という思いが元となっているんだと思います。その根底にあるのは、“永遠の命がほしい”という気持ちかもしれません…(笑)

これを現実的に考えると、より多くの人に価値を提供するモノ・サービスを作ることで、自分自身がいなくなったとしても生き続けることができるということでしょうか。もともと芸術大学を志望していたのですが、そうしてアートに興味があったのも同じ理由だったと思います。

FTI加藤:長坂さんのそうした独特で面白い部分に、私も出会ったころから惹かれていました(笑)

エーテンラボ長坂さん:社内でも情報をオープンにすることで社員みんなが意見を言いやすくなり、それによってより良い議論に繋がり、選択肢が増え、結果的に良い意思決定ができます。みんなが納得することで意思決定の精度が上がると思っています。「みんチャレ」の機能もそうして作り上げられた議論の中から選出されたものです。

FTI加藤:ほかの投資先と比較しても、エーテンラボは特殊中の特殊だと思います。トップの人柄・フィロソフィーが最も反映されるのが組織設計と文化だと思いますが、これには長坂さんが参加されていたソフトバンクアカデミアでのご経験も影響しているんでしょうか?

エーテンラボ長坂さん:とても受けていると思います。「孫子の二乗の兵法」は私の経営理念の源泉となっています。なかでも意思決定の数が人を成長させる、どれだけ多くの選択肢の中からどう選択するかということは常に考えています。それが色々なことをオープンにしていることにもつながっています。意思決定の精度やスピードを高めて企業としての成長も迅速化していきたいです。

同じ視座で議論できることが信頼感に

エーテンラボ長坂さん:ヘルスケアに舵を切ったとき、専門性の高い内容でも話が通じるかが重要でした。その点において、意思疎通の呼吸が合い、深い知見があり、有識者を紹介してくれるFTIの存在はとても心強かったです。

密なコミュニケーションをとっていただいていることも大変ありがたいです。ここ1年半ほどは毎週打ち合わせの時間を設けていただいています。

FTI加藤:例えばLivongo Healthのビジネスモデルを知っている人がどれだけいるかということですよね。Teladoc Healthが2020年に同社を買収し話題となったデジタルヘルスの有名企業ですが、こうしてグローバルに業界の動向を熟知し、同じレベルで議論を行えるというのも、長坂さんとの信頼を築きながら二人三脚ができている理由だと感じます。

エーテンラボ長坂さん:私自身が包み隠さず困っていることを相談するタイプでもあるので、臆せずに毎週相談させていただいています。毎回切実に回答をくださるので、頼り甲斐もありますし、信頼を置いています。

FTI加藤:長坂さんが接しやすいお人柄ということもあり、私も肩肘張らずにコミュニケーションを取ることができています。

ハンズオン支援のなかで意識しているのは、エーテンラボの自社では届きにくい機能や能力をサポートするということです。強みである組織づくりや開発(エンジニアリングやシステム)の外の部分、直近では資金調達や事業展開についてのアイディアや手法、トレンドなどを共有させていただいています。

また、アドバイスだけではなくアクションも大切だと思っているので、こちらから何かを提供したり、専門家をつなげたり、新しい仕事を作ったりといった先回りの支援を今後も心がけていけたらと思います。

投資先インタビュー A10Lab

●エーテンラボ株式会社
習慣化アプリ「みんチャレ」を開発・運営。「みんチャレ」はダイエット・運動・勉強など共通の目標を持った匿名の5人でチームを作り、チャットに報告して励まし合うことで楽しく習慣を身につけ、自己効力感を向上させることができるデジタル・ピア(仲間)サポートアプリで、ユーザー数は140万人(2023年12月時点の累計利用者数)を超え、2023年3月にはChatGPTを活用した習慣化アシスタントの「にゃんチャレAI」β版をリリースしている。ユーザーが「みんチャレ」での習慣化の成功体験を糧に、自ら積極的に行動して幸せになる世界を目指している。
https://a10lab.com

代表取締役 長坂剛さん
ソニー株式会社でB2B営業や本社事業戦略、PlayStationの新規事業を手がける。2014年、Sony Startup Accelaretion Programに採択され「みんチャレ」を開発。2016年12月にエーテンラボ株式会社を創業し、2017年2月にソニーから独立。ソフトバンクアカデミア外部一期生。

●株式会社ファストトラックイニシアティブ 
「Capital For Life ベンチャーの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つベンチャーへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。

アソシエイト 加藤尚吾
技術経営学と機械工学をバックグラウンドとしており、2018年4月よりファストトラックイニシアティブに参画。主にヘルステック・メドテック領域における投資・支援に強みがあるほか、大学発スタートアップや事業会社スピンアウト案件の立ち上げにも注力している。東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系 博士後期課程修了。博士(技術経営)。