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【投資先対談】患者を“取り残さない”ため、主治医の行動変容を促す 属人化した知見をプラットフォーム化し医療の未来を変える|株式会社Medii

投資先対談 Medii

“誰も取り残さない医療を”を目指し、主治医とエキスパート専門医をつなぐ医師向け専門医相談サービス『Medii Eコンサル』を開発・運営する株式会社Medii(以下、Medii)。

「Capital For Life スタートアップの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションにハンズオン支援を続けてきた株式会社ファストトラックイニシアティブ(以下、FTI)は、2024年3月にMediiへの初回投資を実行。ともに 「いのち」のため事業を展開する“同志”として、医療・ヘルスケア分野への強みを活かしたサポートを行ってきました。

今回は、Medii創業者で代表取締役医師の山田裕揮さんをお迎えし、FTI代表パートナー・安西智宏、アソシエイト・加藤尚吾との対談を通して、投資実行の経緯やMedii側から見たVCとの関わりについて話を聞きました。

患者のために、「主治医の行動変容」に着眼

FTI安西:山田さんと初めてお話したとき「誰も取り残さない医療を」というミッションを掲げインクルーシブな医療を目指していくという気持ちの強さに、心を打たれたことを覚えています。まさにFTIが大切にしている「いのち」「くらし」と大いに通ずるミッションであり、医師であり難病患者でもある山田さんの思いが、私たちを含め周囲の共感を呼んでいると感じます。

Medii山田さん:「誰も取り残さない医療を」の「誰もって“だれ”?」ということなんですが、色々な視点があるなかでも最終的には“患者さん”だと思っています。

医学が革新的な進歩を遂げる一方で、医療現場はつねに切迫しており、医師一人の努力や献身だけでは常に新しい技術をキャッチアップし受け入れるには限界がきています。せっかく良い新薬が出ても主治医がそれを処方するための時間的・作業的な余裕がないばかりに、患者さんが適切な治療を受けられないという現実。それを、医師としても患者としても感じてきました。

この課題を解決できる仕組みが作れないかと切に感じていたこと、また、これは現場のひとりの医師としての立場では成し遂げられないことだという意識を持っていたことが、Mediiを創業したきっかけです。

私自身は、医師歴よりも患者歴のほうが長いんですよね。発症後9年間、病名を診断されないまま過ごし、まさに“取り残された当事者”として苦しんだ経験があります。また、患者会に行くと、自身の疾患について熱心に勉強を重ね、最新の知識も豊富な患者さんにお会いすることがあります。しかし、たとえそのような“スーパー患者”になろうとも、主治医が治療方針を変えない限り、適切な医療を受けることはできません。

患者さんにとっては、エビデンスに基づき新薬を処方されたり治療方針を向上してもらうことが望ましい一方で、医師側にとっては全ての最新知見を十分に吸収し、診断や治療に活かすには構造的制約が存在しています。つまりそれは裏返せば、主治医が自身の専門外の領域や、最新の専門知識を必要とする状況において、専門医の知見を容易に得られる仕組みがあれば、主治医の考えや行動が変わり、患者さんの未来を変えることができるということです。

そこに着眼し、患者さんにアプローチするサービスではなく、患者さんのために主治医の行動変容を促すサービス『Medii Eコンサル』を始めました。

FTI安西:主治医と患者の対話のキャッチボール、またそれによる治療方針の転換は、これまでそれぞれの医師が個別に行ってきたことでした。それをシステム化し、主治医や患者のみならずエキスパート専門医や製薬企業も一緒に、一方向ではない包括的な医療を行おうという仕組みが『Medii Eコンサル』ですよね。医師と患者、両方のご体験があるからこそ考え着くサービスだと感じます。

プラットフォーム自体がエキスパート化

Medii山田さん:せっかく新たな治療の選択肢が増えても、すべての医師が簡単に使いこなせるわけではありません。特定の専門領域に精通したエキスパート専門医たちは、その深い知識と経験に基づき、新薬を含む最新情報を積極的に取り入れています。一方で、そのほかの幅広い疾患領域の患者さんを対応する必要がある多くの医師は、限られた時間の中であらゆる領域の最新知識や治療法をアップデートし続けることは現実的に困難であり、新薬の存在すら認識できていない状態さえあります。患者にとって最適な治療が行われているか判断するためには、エキスパート専門医の豊富な知見が欠かせません。

そこでDoctor to Doctorという形で、エキスパート専門医から主治医に情報共有やアドバイスを送ることが『Medii Eコンサル』では可能です。将来的には、これまでエキスパート専門医の“頭の中”にしかなかった情報・知識・経験が、日々の症例相談を通じてプラットフォーム上に集積され構造化されていく。そうして、Medii Eコンサル自体が集合知としてのエキスパートのような存在へと進化していくことができれば、主治医の悩みに寄り添うとともに、エキスパート専門医の負担の軽減にもつなげることができると考えています。

FTI安西:『Medii Eコンサル』を開始して、手応えはいかがですか?

Medii山田さん:昨年、主治医からエキスパート専門医への症例相談件数が1万件を超えました。これは1人で臨床医をしていても決して到達できない数字・患者さんの数だと思います。

FTI加藤:『Medii Eコンサル』は当初想定から現在のようなビジネスでしたか? Medii黎明期にビジョンに対するアプローチは違ったりしたのでしょうか?

Medii山田さん:今年、2025年2月で5周年だったのですが、結論としては5年前から現在のビジネスモデルを描いていました。ただ、ほかにもセカンドオピニオンに関するサービスなども検討した結果、『Medii Eコンサル』に舵を切りました。それが2021年のことです。

FTI加藤:立ち上げ当時はパラメーターが多数ありますが、やはり両輪を検証されたんですね。

新たな治療選択を創り・届ける仕組みづくりに貢献

FTI安西:スタートアップが大手製薬に切り込んでいくのはなかなかハードだったと想像します。Mediiの何が彼らのハートを捉えたと思いますか?

Medii山田さん:ひたすら話を聞き続けましたね。「喫緊の課題・ペインを伴うニーズは何なのか?」を追い求めました。ニーズを聞くとNice to haveなものを発想しがちですが、そうではなく、これからの未来にMustな選択肢として『Medii Eコンサル』を提案しました。

医薬品の売り上げを伸ばすためには、主治医にきちんと処方してもらえることが重要であり、『Medii Eコンサル』は、その主治医を全国のエキスパート専門医が支える専門知見の共有プラットフォームです。とくに、ニーズが限られる希少疾患やがんなどのスペシャリティ医薬品においては、その領域に精通した信頼できるエキスパート専門医との質の高い対話が、新たな治療法との接点を生む鍵となります。私が医師であることに加え患者としての経験があることで、より聞き入れてもらえたと感じています。

FTI安西:対一企業ではなく製薬業界全体を考えた場合、どういったコラボレーションができるかお考えはありますか?

Medii山田さん:現在、販売されている医薬品だけでなく、上市されていない医薬品についてのアプローチも開始しています。例えば、治験の被験者である患者さんをうまくリクルートできないといった課題に対してのサービスをローンチしました。新薬開発におけるリスク全体を低減させていけるような取組を視野に入れた取組を行っています。また、将来的には、プラットフォームを通じて構築されたエキスパート専門医とのリレーションや蓄積された医療知見、AI技術も活かしたサービスとして進化していくことで、革新的な新薬が患者さんにとどくまでのバリューチェーン全体を最適化し、新薬市場を創り・育てて行くことに一層貢献ができればと考えています。

FTI安西:Mediiならではの独自のポジション確立にもつながりますよね。いかに患者さんに薬を届けたいかという強い思いも感じました。経営者としてはどのような意識で営業されていますか?

Medii山田さん:本来アプローチしたい層は、製薬企業のマーケティング担当よりも上の、経営判断をする方々です。マーケティング目線では、PVやクリック数といった数値を追うことも大事なのは理解していますが、一番重要なのは“医薬品の処方につなげること”であると思います。売上につながるエビデンスを見せること、『Medii Eコンサル』の結果・実績を踏まえてマーケティング担当者から上層部にあげていただくことを意識しています。

世界を代表するような企業に

FTI加藤:医師としての視点もお聞きします。『Medii Eコンサル』のコンテンツが真に医師にとって意味があるものであると知ってもらう必要があると思うのですが、どのようなアプローチが良いとお考えですか?

Medii山田さん:コアリーチ層は、希少疾患だけに対応するわけにはいかない医師、つまり幅広い疾患と向き合わなければいけない医師です。患者数が多いのも希少疾患以外の疾患です。「専門領域の疾患ではあるけれど、その疾患に対して知識や経験が十分ではない」医師に対するアプローチが必要だと思っています。

FTI安西:今後もさまざまな新サービスを思い描いていらっしゃると思いますが、組織としてMediiにはどのような特徴がありますか?

Medii山田さん:メンバー全員のベクトルが揃っていることが最大の特徴ですね。心理的安全性が高いことはもちろん、成果を出すための妥協点が高く、バリューを徹底する組織であると感じます。

「誰も取り残さない医療を」は国内だけではなく世界全体で求められていることです。Mediiが取り組んでいる課題解決は世界にも通じることであり、世界を代表するような企業として、地球全体の医療インフラを作っていきたいです。

投資先対談 Medii

●株式会社Medii

「誰も取り残さない医療を」をミッションに、希少疾患やがんをはじめとした、新たな診断技術や革新的な新薬が顕著に増えている専門性が高い領域の課題解決に取り組む。主治医が適切なエキスパート専門医に迅速に相談できる「Medii Eコンサル」を提供し、医師でも対応が難しい患者の早期診断と治療の最適化に貢献。また、製薬企業との協業プロジェクトを展開することで、主治医・エキスパート専門医・製薬企業・患者それぞれに価値をもたらす四方良しで持続可能な新しい医療インフラを構築している。

代表取締役医師 山田裕揮さん
東京科学大学医学部 客員准教授、日本リウマチ学会専門医・指導医。
和歌山県立医科大学医学部を卒業後、慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程を修了。自身も不治の難病を抱えており、その経験をきっかけに、難病患者が多い膠原病内科で患者を支えたいと考え、聖路加国際病院や慶應義塾大学病院などで勤務。医学が急速に高度化する一方で、診断や治療の選択が難しく、医師の知見に偏りが生じやすい専門領域が多く存在する。そこで、日本中、世界中の患者に最新・最適な医療が届く仕組みをつくりたいという想いからMediiを創業。現在も臨床現場を支えながら、“誰も取り残さない医療”を実現するために尽力している。

●株式会社ファストトラックイニシアティブ 
「Capital For Life ベンチャーの力を、いのちへ、くらしへ」をミッションに掲げ、バイオテック・ヘルステック領域に特化したベンチャーキャピタル・ファンドの運営を行う。日本発の卓越した技術・事業シーズを持つベンチャーへのハンズオン支援に注力し、独創的アプローチによる世界規模での新規市場創出を目指している。

代表パートナー 安西智宏
東京大学理学部生物学科卒業。同大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(生命科学)。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校 AMP修了。ファンド運営責任者としてバイオテック・ヘルステック領域の案件発掘から企業設立、育成、投資回収までの業務全般を担当。代表取締役としての投資先企業の設立をはじめ、ハンズオンでの経営支援に15年超の実績を有する。FTI参画前は、アーサー・D・リトル(ジャパン)株式会社で国内外企業の経営コンサルティングに従事。東京大学特任准教授、京都大学客員准教授等を歴任。2012年には内閣官房 医療イノベーション推進室に在籍。「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」等の政府系委員を歴任。「Japan Venture Award 2021」ベンチャーキャピタリスト奨励賞受賞、Forbes JAPAN「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家2021」第2位。日本ベンチャーキャピタル協会 産学連携部会委員。

アソシエイト 加藤尚吾
技術経営学と機械工学をバックグラウンドとしており、2018年4月よりファストトラックイニシアティブに参画。主にヘルステック・メドテック領域における投資・支援に強みがあるほか、大学発スタートアップや事業会社スピンアウト案件の立ち上げにも注力している。東京工業大学 環境・社会理工学院 イノベーション科学系 博士後期課程修了。博士(技術経営)。